糖尿病に対する注射治療(インスリンやGLP-1製剤など)
糖尿病に対する注射治療(インスリンやGLP-1製剤など)
インスリンは、人間の体に生きていくうえで絶対に不可欠なものです。
皆さんのインスリンのイメージは、すい臓からでる、血糖値を下げる大切なものという印象をお持ちかと思います。しかし血糖値が下がるのは、実は二次的なものです。
インスリンは、<血液中の糖を全身の細胞に取り込む>というはたらきがあり、細胞はその糖分を利用して活動します。その結果として血糖値がさがります。
そのため、インスリンがなくなったり、不足したりすると細胞に糖がいかないため人間は生きていけなくなってしまいます。
このように大切な働きをもつインスリンですが、その歴史は、1869年までさかのぼります。ドイツのランゲルハンス先生が、膵臓に特別な細胞があることを見つけました。
しかし、その当時この細胞が何をしているのか、まったくわからない状況でした。
その後50年以上経過した1921年に、バンティング先生とベスト先生が、膵臓の細胞からの抽出物を注射すると血糖値が下がることを発見しました。
これをアイレチンと名付け、のちにインスリンと呼ばれるようになりました。
しかし、いざ治療のためにインスリンを多く作ろうにも当時にはその技術はなく、1人の患者さんを1年治療するためには、ブタ70頭分の膵臓が必要で非常に高価な治療でした。
さらに治療をしたとしても、他の動物であるブタからのものであり副作用も多かったともいわれています。
しかし1980年頃から遺伝子工学が発達し、ヒトインスリンを生成することに成功しました。その結果多くのインスリンが生成されるようになり、インスリン治療の可能性が広がりました。
現在では、インスリン製剤も改良され多岐になってきました。特に大切なものが作用時間であり大きく分けると作業時間により、以下の種類があります。
1日中作用
1から3時間後に作用開始し18から24時間持続
30分程度で作用発現し5から8時間持続
約10分程度で作用発現し2時間程度と作用時間が短いもの
およびこれらの組み合わせである
があります。
実は、インスリン開発当初は、インスリンの作用時間が短すぎるためプロタミンという化合物が混ぜられ中間型インスリンができました。
その後さまざまなインスリンが開発され、現在の一般的なインスリン治療として、①の持効型インスリンと④の超速効型インスリンの組み合わせ(強化インスリン療法といいます)で開始され単位数を調整することが主流となってきています。
食事の直前に打つ超速効型インスリンに加え、なぜ24時間はたらく持効型インスリンが必要かというと、最初に述べたようにインスリンは、<血液中の糖を全身の細胞に取り込む>ものであり、日常の生活に24時間全身の細胞は働く必要があり糖分が必要であるためです。
そのため持効型インスリンが必要で24時間ゆっくり効かせたうえで、食事でたくさん糖分を取り込んだ際には、超速効型インスリンで血糖値を上がりにくくするということが生理的な方法と考えられるため、一日一回の持効型インスリンと毎食前の超速効型インスリンで治療開始することになります。
治療を継続し、血糖値の状態が安定してくると飲み薬が効きやすくなってきます。
そのため2型糖尿病においては、可能な限りインスリンを飲み薬へと置き換えていくことを行い、超速効型インスリンから離脱し持効型インスリンのみとなるようにしていきます(持効型インスリンも離脱できることもあります)。
インスリンを飲み薬(および注射GLP-1製剤)へと置き換えていくメリットは、注射の手間を減らす以外にも、太りにくくしたり、低血糖となるリスクを減らしたりするということがあります。
最近ではさらに持効型インスリンの効きを、さらに長くした1週間に1回のお薬(®アウィクリ)も登場してきており、さらにインスリンの投与回数が減らせるようになってきています。
加えて、インスリンを打つ針も徐々に細くなってきており、以前に比べ痛みもかなり軽減できるようになってきています。
インスリン治療といえば抵抗をお持ちな方も多いかと思いますが、ご興味のある方や、飲み薬の治療でも血糖値があまりよくない方、一度お話を聞いてみたいという方は、お気軽に当院へ相談ください。
次にGLP-1製剤のお話をしたいと思います。
GLP-1というものは、インクレチンの一つです。
それでは、インクレチンとは、いったい何なのでしょうか?
インクレチンとは、一言でいうと<血糖値に応じてインスリンを出すという消化管からでるホルモン>で、十二指腸や小腸から分泌されます。
1906年にモーレ先生が十二指腸粘膜からの抽出物が糖尿病患者さんの尿糖を消失させることを発見し注目されるようになりました。
その後1932年にLa Barreがインクレチンと名付け、多くの研究がされ現在に至ります。
このインクレチンの特徴としては、血糖値に応じてインスリンを分泌するため食後の血糖値を抑える作用が強いことと、インクレチンにはGIPとGLP-1という2種類があることです。
またGIPもGLP-1もDPP4という酵素で分解されるという共通点を持ちます。
そのため最初に登場したものがDPP4を阻害しインクレチンであるGIPとGLP-1を分解できなくすることで血液中に増やすお薬で、DPP4阻害剤といいます。
DPP4阻害剤(®ジャヌビア、®テネリア、®トラゼンタなど)は、インクレチンを増やすことで血糖値を下げるだけではなく、血糖値に応じてインスリンを分泌するため、今までのお薬で多く見られた低血糖を起こしにくいという特徴があるため、日本で最も使われている糖尿病のお薬になります。
その後インクレチンであるGLP-1は、インスリンを分泌するだけではなく、食欲も抑える作用があることに注目されるようになり、GLP-1の注射薬がまず誕生しました。
現在では週一回の製剤(®オゼンピックや®トルリシティなど)や、内服(®リベルサス)も登場し、当院でもGLP-1のお薬を積極的に処方することが多くなっています。
ただしGLP-1製剤の注意点としては、食欲を落としてしまうがゆえに、高齢の方への投与は慎重にしないと筋肉が落ちフレイルという状態を起こしかねません。
2点目は、GLP-1製剤を使用すると糖尿病網膜症が悪くなるという報告もあるため、当院では使用前に眼科の先生に眼底の評価をお願いすることもあります。
ただし、逆の言い方をするとGLP-1製剤は、かなり効果が強いですのでメリットも非常に多いです。
また理論上は、2型糖尿病で通院中の方に、週一回のインスリン+週一回のGLP-1注射製剤という組み合わせで、週に一回だけ二本の注射をしておしまいということも可能となります(全員ができるというわけではありませんが・・・)。
以上インスリンとGLP-1製剤という2種類の糖尿病注射薬のお話しをしました。当院では、注射での糖尿病治療を50人以上実施しております。
特に新規導入の際には、なるべく時間をかけて、糖尿病専門医および指導医である院長や注射手技に精通した看護師から指導を(可能なら家人にも)行うようにしています。
また、糖尿病に対する注射治療の場合には血糖値の測定も保険診療で可能ですので測定手技の指導や、低血糖の対処法についても、併せてなるべくお伝えするようにしています。
当院での糖尿病治療希望がありましたら、対応いたしますので、お気軽にご相談ください。
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